【第3回】労働生産性を高めて利益と給与を増やす方法

「毎日の診療が忙しすぎて、スタッフが疲弊している。とにかく人を増やさないと回らない」
そう決断して採用活動を行い、やっとの思いで新しいスタッフを迎え入れたはずなのに、なぜか現場の混乱が収まらない。それどころか、人件費が増えたことで利益が圧迫され、昇給の原資も確保できない……。
もし今、このような悪循環を感じているとしたら、少し立ち止まって「組織の健康状態」を見直すタイミングかもしれません。
忙しいからといって、単に「頭数」を揃えるだけでは解決しない問題があります。今回は、スタッフの頑張りを正当に報い、かつ経営を安定させるための「労働生産性」と「適正配置」についてお話しします。
「忙しい」の正体を見極める
まず、「なぜ忙しいのか」を冷静に分析する必要があります。本当に「マンパワー(人数)」が足りていないのでしょうか?
実は、多くの中小企業や動物病院で起きているのは、「業務の交通渋滞」です。
- 誰でもできる事務作業を、院長やベテラン看護師がやっている
- 情報の共有がうまくいかず、確認作業やミスの修正に時間を取られている
- ITで自動化できる予約管理や在庫管理を、すべて手書き・手入力で行っている
これらは「ムダな忙しさ」です。この状態で人を増やしても、新人教育という負荷が加わるだけで、かえって現場の生産性は下がってしまいます。まずは「人を増やす前に、今のメンバーでできる効率化はないか?」を考えることがスタート地点です。
労働生産性とは「1人あたりの稼ぐ力」
ここで意識していただきたい指標が「労働生産性」です。計算式はシンプルです。
- 労働生産性 = 粗利益 ÷ 従業員数
つまり、スタッフ1人がどれだけの価値(利益)を生み出しているか、という数字です。
経営者としては「利益」の話をスタッフにしづらいと感じるかもしれません。しかし、労働生産性は「給与の原資」そのものです。
スタッフの給与を上げてあげたい、休みを増やしてあげたい。そう願うのであれば、この「1人あたりの稼ぐ力」を高める以外に道はありません。単に人を増やして分母(従業員数)だけ大きくなれば、当然、1人あたりの分配できるパイは小さくなってしまいます。
適正配置とタスク・シフティング
では、どうやって労働生産性を高めればよいのでしょうか。精神論で「もっと早く動こう」と指示するのは逆効果です。経営者がやるべきは「仕組みによる解決」です。
専門職が「専門業務」に集中できていますか?
例えば動物病院であれば、獣医師は「診察・手術」、愛玩動物看護師は「看護・検査」といった、資格が必要な業務にどれだけ時間を使えているでしょうか。
受付業務、電話対応、掃除、在庫管理……これらが専門職の時間を奪っているなら、配置を見直すべきです。 「タスク・シフティング(業務の移管)」を行い、無資格のスタッフやパートタイムの方に周辺業務を任せる、あるいはITツール(Web予約や自動釣銭機など)に置き換える。これにより、専門職はより多くの患者様に対応できるようになり、結果として単価や回転率が向上します。
今すぐできるアクション
業務の「棚卸し」をしてみましょう
スタッフ全員に、1日の業務の中で「これは自分がやらなくてもいいかも?」「時間がかかりすぎている」と感じる作業を3つ書き出してもらいましょう。
- やめる(そもそも不要な慣習など)
- 減らす(回数や頻度を見直す)
- 任せる(他の人やITツールへ)
この視点で現場の声を拾い上げてください。「院長、実はこの手書き台帳、誰も見ていません」といった衝撃の事実が出てくることもあります。それを一つ解消するだけで、現場の空気は確実に変わります。
さいごに
「労働生産性」という言葉は少し冷たく聞こえるかもしれませんが、その目的は「スタッフとお客さま(飼い主様)を幸せにするため」にあります。
ムダな業務を減らし、本来向き合うべき仕事に集中できる環境を作る。それが利益を生み、結果としてスタッフへの「賃上げ」や「働きやすさ」として還元されます。 「うちは人が足りない」と諦める前に、ぜひ一度、今のチームのポテンシャルを最大限に引き出す方法を一緒に考えてみませんか?
数値を元にした現状分析や、具体的な業務改善のステップについてもお手伝いさせていただきます。
次回、第4回は「リピート率(LTV)」についてご紹介します。皆様のお役に立てれば幸いです。
今回の記事のポイント
・「忙しいから増員」はコスト増と混乱を招くリスクがあるため要注意
・「労働生産性(1人あたりの稼ぎ)」こそが、賃上げと待遇改善の原資になる
・専門職が専門業務に集中できるよう、業務の「棚卸し」と「移管」を行う
動物医療 × DX × 中小企業診断士
大澤 正己


