【第2回】「なんとなく売上が悪い」からの脱却。動物病院経営を支える3つの基本指標

月末、税理士から送られてきた試算表やレジの月計レポートを見て、「今月は思ったより売上が伸びなかったな……」とため息をつくことはありませんか?
日々の診療に追われていると、どうしても「結果としての売上金額」だけに目が行きがちです。そして、数字が落ちていると「今月は天気が悪かったから」「最近、景気が良くないから」と、外部環境に理由を求めてしまいそうになるものです。
しかし、経営において「売上」という数字は、あくまで結果にすぎません。 今回は、漠然とした売上の不安を解消し、次の一手を打つために必要な「売上の分解」についてお話しします。
病院経営にも「バイタルサイン」のチェックを
先生方は、体調不良で来院した動物に対して、いきなり「元気がないですね」と結論づけることはないはずです。まずは体温、心拍数、呼吸数といったバイタルサインを測定し、血液検査などで原因を特定していくでしょう。
経営もこれと全く同じです。「売上が下がった」というのは、あくまで「元気がない」という主訴にすぎません。どこが悪いのかを特定するには、売上を構成する要素(バイタル)を分解して診断する必要があります。
売上の基本公式を思い出そう
売上は、非常にシンプルな掛け算で成り立っています。
- 売上 = 来院数 × 平均診療単価
つまり、売上が下がった原因は、「患者さんが減ったのか(来院数減)」、それとも「1回あたりの治療費やお薬代が減ったのか(単価減)」のどちらか、あるいは両方しかあり得ないのです。
さらに、来院数は以下のように分解できます。
- 来院数 = 新患数 + 再診数(既存顧客)
の分解を行うだけで、「なんとなく悪い」という状態から、「新患は増えているけれど、既存の患者さんの来院頻度が落ちている」といった具体的な症状が見えてきます。
「景気のせい」にする前に見るべき3つの指標
外部環境(景気や天気)の影響はゼロではありませんが、自院の努力でコントロールできる部分に目を向けることが重要です。以下の3つは「動物病院経営のバイタルサイン」とも呼べるものです。
- カルテ枚数(1日あたりの来院件数)
- 平均診療単価
- 新患数
数字の動きから「病状」を読み解く
例えば、「売上が下がった」という同じ結果でも、以下のように対策は全く異なります。
- 「来院数」が減っている場合: DM(ダイレクトメール)やLINEでの定期検診の案内は届いていますか? 待合室での接遇に問題はありませんでしたか? リコール(再来院の促進)の強化が必要です。
- 「単価」が減っている場合: 予防薬のまとめ買いが減った時期ではありませんか? あるいは、必要な検査や処置の提案をスタッフが遠慮してしまっていませんか? 提案力の見直しが必要です。
- 「新患数」が減っている場合: ホームページのSEO対策や、Googleマップの口コミ対策は十分ですか? 地域の認知活動を見直す必要があります。
今すぐできるアクション
高度な経営分析ソフトを入れる必要はありません。まずは明日から、以下の行動を試してみてください。
手書きの日報で「変化」に気づく
大学ノートや手帳、あるいはエクセルでも構いません。毎日の診療が終わったら、以下の3つだけを記録してください。
- 今日の来院件数
- 今日の売上合計 ÷ 来院件数(=平均単価)
- 今日の新患数
これを1ヶ月続けるだけで、「月曜日は単価が高い」「雨の日は新患がゼロになる」といった傾向が見えてきます。 月末にまとめて1回だけ数字を見るのではなく、毎日数字をチェックすることで、病院の体調変化にいち早く気づき、「明日は雨予報だから、予約の患者さんに確認の電話を入れておこう」といった先回りの対策(予防治療)が打てるようになります。
さいごに
「経営」というと難しく聞こえるかもしれませんが、先生方が日々行っている「診断・治療」のプロセスと本質は同じです。
正しいデータを集め、原因を特定し、処置を行う。 このサイクルを回すことで、病院経営はもっと安定し、健全な状態を保つことができます。「売上」という大きな塊に惑わされず、まずは足元の「客数」と「単価」から見直してみませんか?
もし、集めたデータの読み解き方や、具体的な改善策に迷われた際は、ぜひお気軽にご相談ください。一緒に病院の健康状態を診断していきましょう。
次回は、第3回「労働生産性」についてご紹介します。皆様のお役に立てれば幸いです。
今回の記事のポイント
・売上の合計金額だけを見て一喜一憂せず、「来院数」と「単価」に分解して原因を探る
・「なんとなく不調」は危険信号。新患・再診・単価のどこに課題があるか特定する
・毎日の日報で「3つの基本指標」を記録し、病院の体調変化を早期発見・早期治療する
動物医療 × DX × 中小企業診断士
大澤 正己


