【第1回】「忙しいのに利益が残らない」を脱却する。医療と同じく経営にも「検査」が必要な理由

毎日、目の前の業務や診療に追われている経営者様、院長先生、本当にお疲れ様です。 「待合室はいつも混んでいるし、スタッフも走り回っている。それなのに、通帳を見ると思うようにお金が残っていない……」

もし、そんなモヤモヤとした不安を抱えているとしたら、それは先生の腕が悪いわけでも、スタッフがサボっているわけでもありません。 多くのケースで、その原因は「経営の健康状態」を数値で把握できていないことにあります。

なぜ「勘と経験」だけでは危険なのか

創業期や開業当初は、経営者自身の類まれな「勘」と「経験」、そして情熱だけで事業を成長させることが可能です。すべてが自分の目の届く範囲にあるうちは、肌感覚での判断も大きく外れることはありません。

しかし、組織が大きくなり、スタッフが増え、競合環境が変化する中で、これまでの「感覚」だけに頼るのは非常にリスクが高くなります。

ここで、少し視点を変えて医療の現場を想像してみてください。 元気がない動物が来院した際、熟練の獣医師である先生は、パッと見ただけで「あ、これはあの病気かもしれない」という「勘」が働くはずです。

しかし、その直感だけで、検査もせずにいきなり手術をするでしょうか?

おそらく答えは「No」でしょう。血液検査やレントゲン、エコーなどの「客観的なデータ」をとって、自分の見立てが正しいかを確認し、治療方針を決定するはずです。

経営もこれと全く同じです。「なんとなく売れている気がする」「今月は忙しかったから大丈夫だろう」というのは、検査なしで手術をするようなもの。経営における「数字」は、企業の健康状態を示す「検査データ」そのものなのです。

経営における「検査データ」の読み解き方

「数字が必要なのはわかったけれど、決算書や試算表を見ると頭が痛くなる……」 いわゆる「数字アレルギー」をお持ちの方も多いかと思います。

ですが、安心してください。経営に必要な数字は、税理士試験のように細かく正確に計算することではありません。「異常値が出ていないか」「傾向はどうなっているか」を把握することが目的です。

まずは「利益」と「キャッシュ」に注目する

多くの経営者様は「売上」を一番気にされます。もちろん売上は大切ですが、会社の存続に関わるのは「利益(儲け)」と「キャッシュ(現金)」です。

  • 売上高:体の大きさ(規模)
  • 利益:体についた筋肉(稼ぐ力)
  • キャッシュ:血液(循環しなくなると倒れる)

いくら体が大きくても、筋肉がなくて脂肪ばかり(コスト過多)だったり、血液が回っていなければ(資金繰り悪化)、企業は倒れてしまいます。 「忙しいのに儲からない」という症状は、売上(規模)に対して、コストコントロールが甘くなっているか、回収サイトなどの資金繰りに問題がある場合の典型的なサインです。

今すぐできるアクション

いきなり複雑な分析をする必要はありません。明日からできる小さな「検査」を始めてみましょう。

毎月1回、3つの数字だけをチェックする

毎月、試算表が出てきたら(あるいは税理士さんに聞いて)、以下の3つだけをチェックしてください。

  1. 粗利益率(あらりえきりつ):ここが下がっていると、仕入れ高騰や割引のしすぎ、廃棄ロスが疑われます。
  2. 人件費率:売上に対して人が多すぎないか、あるいは少なすぎて疲弊していないかを見ます。
  3. 現預金残高:前月と比べて増えているか、減っているか。

この3つを、「先月と比べてどうか?」「去年の同じ月と比べてどうか?」と比較するだけで十分です。 医療検査でも、数値の推移を見て「肝数値が上がってきたな、食事療法が必要か」と判断するように、「原価率が上がってきたな、在庫管理を見直そうか」と判断できるようになります。

さいごに

経営における「数字」は、決して経営者を責めるための通知表ではありません。 病院や会社を長く存続させ、スタッフやその家族を守るための「羅針盤」であり、異常を早期に知らせてくれる「アラート」です

「勘」や「経験」は、数字という裏付けがあって初めて、最強の武器になります。 もし、「手元の試算表が読めない」「どの数字が適正値なのかわからない」という場合は、ぜひお気軽にご相談ください。先生の病院の「健康診断」を、一緒に詳しく見ていきましょう。

今回認識いただいた数字の重要性を踏まえて、全5回で「役に立つ数字分析」を発信していきます。
第2回は「基本指標(バイタルサイン)」として売上の基本構造分解についてご紹介します。皆様のお役に立てれば幸いです。

今回の記事のポイント

・「勘と経験」だけの経営は、検査なしで手術をするのと同じくらい危険な状態。
・経営数値は「通信簿」ではなく、異常を早期発見するための「検査データ」
・まずは「粗利益率・人件費率・現金残高」の3つの推移を見ることから始める。

動物医療 × DX × 中小企業診断士
大澤 正己